この製鋼業界で、女性技術者の先駆けになる。
このストーリーのポイント
- 製鋼技術の最前線は想像と違う発見の日々
- 積極的な発信で信頼を得る
- 業界ではまだ少ない女性技術者の先駆者を目指す
-profile-
岡田 晏佳
トピー工業株式会社
スチール事業部 豊橋製造所 生産技術部 製鋼技術グループ
2019年4月入社
化学生命工学専攻 化学・物質工学分野卒。バイオ系の学問に興味を持って大学に進学したが、ひょんなことから鉄に関心を持つように。人類の歴史上かなり古くから使われてきたにもかかわらず、現代でも研究が続く”鉄”という素材に不思議なロマンを感じたという。女性でも生涯働ける場としてトピー工業を選んだ。
鉄づくりの最前線。それは、発見の日々。
私が配属されて担当しているのは、「連続鋳造」という工程で製造した製品(鋳片)を日々チェックして、品質を維持・向上することです。当社の製鋼の流れは「鉄を溶かす」「鉄に種々の元素を加え特性を付与する」「鋼を冷やして固める」という工程を経ていくのですが、「鋼を冷やして固める」の部分が「連続鋳造」です。トピー工業で製造している鋼には数多くの種類があるため、同じ設備を使っていても操業条件はそのたびに変える必要があります。特に冷却条件についてはシビアであり、冷やし方にバラツキが生じればできあがった鋳片という鉄の塊に傷がついてしまうこともあります。急激に冷やしすぎても冷やし方が遅すぎても、表面や内部に傷や割れが入りますし、スケールという酸化皮膜が設備に付着したまま放置してしまえば鋳片は変形してしまいます。鋳造の次の「圧延」という工程になって、鋳片に異常があったことが判明すれば、もう一度製鋼の工程からやり直しですし、製品出荷にも大きな影響を与えます。私たちのスチール事業部でつくられた鉄は、プレス事業部や造機事業部でも使われる主要素材なので、その責任はとても大きなものです。鋳造工程における操業条件の適正化や設備の改善も私たちの任務ですが、その前に、不具合が発生しないよう環境整備を行うことも重要です。
本配属されて数カ月。想像していた以上に私が驚いたのは、製鋼技術の仕事が思いの外、フィジカルであったことです。入社前は、デスクで分析をしたり、試験を行ったりする毎日をイメージしていましたが、実際には高温でむせ返るほどの鋳造現場に足を運び、現場の作業者と頻繁に会話をし、必要であれば実作業も行います。また、日頃から鋳片や設備の様子を把握し続ける必要がある仕事なのだと知りました。まだまだ配属されて数カ月の私は、鋳片に異常がないか判断するために正常な状態の鋳片を知る必要もありますし、現場作業者の皆さんとのコミュニケーションも必要です。しかしそれは決してネガティブな驚きではなく、私にとっては毎日が「探検」であり「発見」の日々でもあります。
新人であることに、女性であることに、甘えない。
私は大学院で製錬について学んでいたので、当初から素材としての鉄についてはある程度の知識を持っていたつもりでしたが、現実の製鋼技術という仕事では、設備に関する豊富な知識も必要。機械や電気の勉強も必死でやらなければついていけません。また、鉄そのものについても、現場の作業者の皆さんから教わることがとても多くあります。長年、鉄づくりに携わってきた無骨でたくましい現場作業者の方々と接することに、当初は緊張もしていましたが、少しずつ信頼をしてもらえるようになってきたかな?と感じます。新人だからといって甘えは許されませんし、考えがあるならしっかり伝えるべき。間違っていても、自分から積極的に発信していくこと。それが私なりのモットーです。
ちなみに多くの学生さんが想像されているように、鉄鋼業界の技術者はまだまだほとんどが男性です。業界内の他社の方とお会いする機会があっても私の存在は珍しいらしく、「トピーさんには女性がいるんですか!?」と言われます(笑)。私が所属する製鋼技術グループでも、私は初めての女性技術者とのこと。もちろん鉄づくりは、ある意味で危険と隣合わせのものなので、キャピキャピなんてしていられませんが、もっと女性技術者が増えるべきだとも思っています。その先駆けになれたらな、と密かに考えています。
生半可なことではないことは承知していますが、いま担当している鋳造についての技術をマスターしたら、いつか精錬にも携わってみたいですね。「精錬」というのは、回収した鉄スクラップを溶かし、さまざまな添加剤を入れながら鉄の純度を高めたり、強度を高めたりする工程のこと。鋳造の前段階です。精錬についても鋳造についても深い知識を持つ技術者は少ないので、本当に憧れています。
-メッセージ-
どんな仕事でも学ぶことは大切ですが、人から言われて学ぶのではなく、自分から学ぶことが大事なのだと痛感しています。それが成長にもつながります。わからないことは恥ずかしがらずに聞く、そして自ら行動する。学生のうちに、苦手なことから逃げずに挑戦する習慣をつけておくと良いと思います。