視線は世界へ──。調達のプロとして、歩みを刻む。
このストーリーのポイント
- 入社以来、調達のスペシャリストとして経験を積む
- 自ら志せばチャレンジさせてくれる文化がある
- グローバル調達の担当として、世界レベルでの調達の再編を進める
海外で日本車の素晴らしさを実感したことがきっかけで、ソミック石川へ。川島年貴は調達一筋に15年以上のキャリアを重ねてきた。その経験をふまえ、今、グローバル調達の変革に挑む。
-profile-
川島 年貴
株式会社ソミック石川
調達部 グローバル調達室 グローバル調達グループ
2005年入社/経済学部経済学科卒
静岡県浜松市出身。学生時代は埼玉で過ごすが、就職では地元企業であるソミック石川に入社する。入社以来、調達一筋にキャリアを刻む。7歳と4歳の男の子の父親。陸上選手としてオリンピックに出場するという、自分はかなえられなかった夢を子供に託し、休日には公園で一緒に走っている。陸上競技での専門種目は100m。自己ベスト記録は10秒58。
成長のためになすべきことは、陸上競技に教わった
足が速かったというシンプルな理由で始めたのが陸上競技の100m。高校時代には国体に出場し、大学3年では関東インターカレッジの100mと400mリレーで2部ながら大会記録で優勝、大会MVPも獲得できました。
陸上競技はストイックな個人競技で、苦しさが98%で喜びはわずか2%だけ。目標とする記録をマイルストーンに、ひたすら厳しい練習に耐え、その成果を競技会で確かめる繰り返しでした。自分の課題を見つけ、克服するために努力を重ね、大会での結果を踏まえて次の課題に挑む──そんなPDCAの繰り返しです。それはあらゆる成長に通じるアプローチであり、今も当時を思い出しながら仕事に取り組んでいます。
大学時代のオーストラリア合宿がきっかけで英語を自分の武器にしようと考えるようになり、1年間休学してカナダに語学留学しました。
一緒に過ごしたのは、ヨーロッパ、アジア、中東など世界各地からやってきた留学生たちです。言葉も文化も価値観も異なる彼らと正しくコミュニケーションを取るには、日本人同士の“あうん”の呼吸は通じません。言うべきことはちゃんと口にして、しっかり自己主張しなければ、耳も傾けてもらえませんでした。そんな環境で過ごしたことで、どんな属性の人とでも適切な人間関係を構築する力が身についたと思います。これは調達という仕事に取り組む上で、私の強みになっていると感じています。
カナダではロッキーマウンテンの近くに住み、週末には山登りなど大自然を満喫しました。そんなとき、山の中で目にしたのがボロボロになって走っているクルマの姿。よく見るとそれらはすべて日本車でした。ハンドルを握るカナダ人は異口同音に「日本車は凄い」と絶賛していました。その経験から私は、世界に誇れる日本のものづくりを代表する存在として自動車業界を意識するようになり、クルマ1台に3万点もの部品が使われていることから、自動車部品業界に興味を抱くようになったのです。
ソミック石川を知ったのは、日本に帰って就活を始め、母親と夕食を囲んだときでした。いずれは海外で仕事してみたいと話したら母が「それならソミック石川がいいのでは」と教えてくれたのです。その言葉がきっかけで興味を抱くようになりました。そしてオープンな社風で人間関係もよく、伸び伸びと働けるのではと感じ、入社を決めました。
若手として海外輸出コストの削減に挑む
入社して配属されたのが生産管理部調達室(当時)でした。調達の仕事は、社内外の大勢の人と連絡を取り、調整しなくてはなりません。そのため誰とでも良好な関係を築く必要があります。海外留学で身につけた人間関係構築力を活かして欲しいという会社としてのメッセージが、配属には込められていたと思います。
調達の仕事には大きく分けて、材料となる間接材を調達する「設備調達」と、それ以外の直接材を扱う「部品調達」に分けられます。新人の私は前者の設備調達グループに配属となりました。具体的には工具や保安資材、消耗品、燃料などの調達業務の担当です。ここから私の調達一筋の社会人生活はスタートしました。
調達の仕事とは「必要なものを」「必要なときに」「必要な量だけ」「高品質なものを」「安定的に」「できるだけ安く」仕入れることです。営業のように直接売上を伸ばす仕事ではありませんが、コストを抑えられれば利益を伸ばすことに貢献できます。目立つ仕事ではないけれど、事業を円滑に進め、かつ会社を成長させていく上で重要な役割を果たしているのです。
印象深いのは入社3年目のこと。海外輸出の梱包用に使っていた木箱のコストダウンに成功したことです。木箱の仕入れ値を下げるには木の厚さを薄くすればいいのですが、一方で海外輸送に耐えられる強度も必要です。私は仕入れ先と協力してコストダウンと同時に十分な強度も保っていることを数値で示すことに取り組み、採用に結びつけました。結果として海外輸送費の低減に貢献できました。
若手であっても自ら挑戦したいと志せば、チャレンジさせてくれるのがソミック石川。このときも上司は「やってみろ」と言ってくれました。このカルチャーは当社の大きな魅力です。
一つ、今でも鮮明に覚えている失敗があります。東日本大震災の時です。仕入れ先も被災したため当社の調達活動にも大きな影響が生じました。私は「何とかしなければ」との思いが先走り、仕入れ先に対して調達の相談ばかりしてしまったのです。そんな私の耳に返ってきたのは「あんた、部品のことばっかりだな。こっちは大変なめに遭ったというのに」という先方のつぶやきでした。
安定調達は、仕入れ先が健全であってこそ成り立つものです。私はそのことがすっかり抜け落ちていました。以来私はまずは仕入れ先のことを第一に考え、寄り添うように接することを心がけるようになったのです。仕入れ先との良好な人間関係づくりの大切さを教わった出来事でした。
グローバルな仲間たちと共に
10年目に異動し、直接材の調達活動に携わることになりました。
直接材は当社の製品の材料となるものですから、いわば“工程を買う”のと同じことです。コストダウンに成功すれば大きな利益が見込めますし、品質にも直接影響を及ぼすことになります。もちろん納期についても同様です。非常に責任の重い仕事といえるでしょう。
例えば仕入れ先の経営が傾いて、必要とする直接材が予定通り調達できないとなると、当社の製造が遅れてしまい、結果として納入先である完成車メーカーに迷惑をかけることになってしまいます。仕入れ先の選定にはそうした点への目配りも必要なのです。
仕入れ先の損益計算書や貸借対照表、決算書等を読み込む力も必要ですし、製造ラインの技術者と打ち合わせするための技術的知見も必要です。このように実に幅広い知識が求められるのが調達の仕事です。私はその一つひとつについて学び、知識を吸収していきました。それは陸上で目標タイムを設定してクリアーしていくのにも似た感覚。成長の喜びが得られました。
入社14年目、私はグローバル調達の担当へと異動しました。
当社は海外展開に力を入れており、アメリカ、フランス、中国など、世界6ヵ国に10工場があります。各拠点には現地の調達担当者がおり、その材料費の低減や品質管理などのサポートを行うことが本社のグローバル調達担当である私の役目です。日々のコミュニケーションはもちろん英語。国や文化は違ってもソミック石川の同じ“仲間”として協力し合いながら調達を進めています。
グローバル調達の担当となって、わかってはいたことですが、改めて国境を越えたコミュニケーションの難しさを実感しています。日本人は行間を読むことに長けており、詳しい説明がなくても相手の言いたいことを察する文化があります。しかしカナダ留学でも実感したように、「言わなくてもわかるだろう」は通用しません。こちらは説明したつもりでも、相手は「そんな話は聞いていない」と感じることも多くあります。そんな行き違いが生じ、相手に不信感を抱かせることになってしまうこともありました。
海外相手のコミュニケーションではすべてをきちんと言葉で説明しなくてはならないことを反省し、それ以来私は、言葉で説明することに加え、必ずビジュアル資料を作成して認識の不一致が発生しないようにしています。またコミュニケーションの基本はフェイス・トゥ・フェイスという基本に立ち返り、メールに加えて、Web会議でのコミュニケーションも大切にしています。
“教科書にない仕事”を後輩たちに伝えていきたい
自動車業界が100年に一度と言われる変革期にある中、私たち自動車部品業界もその荒波の中で戦っていくことが求められています。特にコスト競争はグローバルレベルで厳しくなっていることを実感します。
本社のグローバル調達の立場として私は各国の調達担当者と情報交換し、最適な仕入れ先についての情報を共有しています。例えば中国から低コストで材料を仕入れられるとしたら、その情報を共有することで、グローバルで中国から仕入れることが可能になるわけです。その先に見えてくるのは、調達の最適化を目指した世界レベルでの再編。そんなダイナミックな取り組みを、世界各国の仲間たちと進めているところです。やりがいは非常に大きいですね。
個人的には、入社前に心に抱いていたように、ぜひ海外での業務にも挑戦したいと考えています。具体的には海外の事業体で調達の仕事に携わってみたいですね。どこの国でもかまいません。チャンスがあればぜひチャレンジしたいと思っています。
海外輸出用の木箱のコストダウンに取り組んだときのように、ソミック石川には、自ら求めれば挑戦させてくれる風土があります。この精神を大切に、これからも挑戦を続けていきたいと考えています。
入社以来、15年以上にわたって調達を担当してきました。まさにこの道一筋に歩んできた実感があります。当面の目標は世界レベルでの調達最適化の仕組みを構築することですが、今後も調達のプロフェッショナルとして知見を蓄え、調達の仕事を極めていきたいと考えています。
調達の仕事には、教科書があります。しかし現場や実践となると、教科書には載っていないことだらけ。どれだけ経験を積んできたかが問われる世界でもあります。そうした経験、知見を後輩たちに継承していくことも求められるような年齢になりました。ぜひ私と一緒に調達の最前線で活躍してくれる方の入社を期待したいと思います。