脱炭素ファイナンスのプロとしてリスクを正しく見極めながら未来のスタンダードを生み出す。
脱炭素ファイナンスのプロとしてリスクを
正しく見極めながら未来のスタンダードを生み出す。
三菱UFJ銀行
岡 寛晃
米国法人営業部(西部)ロスアンゼルス支店 FirstElement Fuel(出向)
2014年入行/外国語学部 国際関係副専攻卒
もともとグローバル志向が高く、入行後は日系企業の海外進出やグローバル案件のサポートに従事。2022年から水素販売事業者として世界最大手のスタートアップ企業に出向する。水素ビジネスの最先端の知見を学びながら、脱炭素ファイナンスのプロをめざす。
日系企業を支えることで、日本のプレゼンス向上に貢献したい
幼少期を海外で過ごした経験から、日本人としての自分を意識し、世界における日本の位置づけについて考えるようになりました。就職活動では「海外での業務に挑戦できること」と「日本のプレゼンスの向上に貢献すること」を軸に、商社や金融機関を検討。日本経済についての知識を深める中で、日本には世界に誇れる高度な技術力があるにもかかわらず、資金不足により倒産や海外企業からの買収を余儀なくされる企業が多いことを知りました。そうした企業を金融面で支え、海外進出のサポートをしたいと考えたことからMUFGへの入行を決めました。
入行後、最初の2年半は支店で法人営業に携わりました。その中で印象に残っているのが、新人時代にある中堅・中小企業のお客さまの海外進出をサポートした経験です。デジタルサイネージを開発・販売されているお客さまで、これまで当行との取引はほとんどありませんでした。しかし、汎用性の高い技術に事業の成長性を感じたことから、まずはお客さまの会社の採用説明会に参加し、事業への理解を深めました。さらにビジネスマッチングサイトを活用し、取引先を何件も開拓するなど、積極的にアプローチをする中で少しずつお客さまからの信頼を獲得していきました。商談の場でもさまざまな話をしてくださるようになったある日、お客さまから「シリコンバレーに研究拠点を設立したい」というご相談を受けました。まだ営業としての経験も浅い中、海外支店や他部署の先輩方と連携を取り、海外拠点の立ち上げに必要な準備を一つひとつ確認し、海外口座開設のための書類準備や手続きなどの対応をした結果、お客さまの海外進出を無事、後押しすることができました。取引の規模としては決して大きくありませんが、当行との取引がほとんどなかった状態からお客さまのニーズを発掘し、夢の実現のお手伝いができたことは自分の中での成功体験になりました。
脱炭素の機運が高まる中、超大型のプラント建設案件に挑む
入行3年目からは大阪営業部に異動し、グローバルに事業を展開する大企業のお客さまに対し、海外事業拡大などのサポートを行いました。この部署に2年半在籍し、営業としての経験や実績を積む中で、入行前から希望していた海外での業務に挑戦したいという気持ちが日増しに高まっていきました。そんなある日、私の心情を察した上司から、「今後のキャリアの方向性に悩んでいないか。本当はどうしたいんだ?」と声を掛けられました。そこで、海外での仕事に挑戦したいこと、そのために何らかの専門性を身につけたいことなどを相談した結果、2019年からソリューションプロダクツ部で挑戦するチャンスをもらうことができました。ここで資源・エネルギー領域のプロジェクトファイナンスに携わった経験が、私が脱炭素ファイナンスのプロをめざすきっかけとなりました。当時、私の本音を引き出し、異動のきっかけをくれた上司には今でも感謝していますし、組織として、個人のキャリアを支援してくれる懐の深さはMUFGならではの社風だと実感しています。
ソリューションプロダクツ部では、主にオイル&ガス産業に関するプロジェクトファイナンスの組成に携わりました。異動後、最初に担当したのは、カリブ海の大規模なケミカルプラントの建設案件です。このプラントで製造されるメタノールは、二酸化炭素から製造可能な水素キャリアでもあることから、将来的に脱炭素社会への貢献が期待されます。また、日本企業が直接出資をすることで、メタノールの輸入元の多様化にもつながります。日本のエネルギー資源の確保や安定供給を支えるという点では、私が入行前にめざしていた日本のプレゼンスの向上に貢献できる仕事であり、高いモチベーションを持って案件に臨みました。
世界トップの水素ステーション事業者で先端知識を学ぶ
プロジェクトの推進は想像以上に困難なものでした。案件の組成自体は2015年から始まり、本来であれば私がプロジェクトに参加した2019年には完工している予定でした。しかし、実際には台風やデモなどの度重なる問題により、まだ完工のめどすら立っていない状況でした。プロジェクトには、現地の国営企業も関わっていたことから、政権や国の制度が変われば、プロジェクトも多大な影響を受ける可能性があります。そうした情報を見落とさないよう、現地のニュース速報を毎日メールで受信し、即時チェックしていました。途中、予定されていた政府からの還付金が遅延するトラブルもあるなど、資金調達面でも苦労しました。また、当行は銀行団を取りまとめている立場であり、私たちが判断を誤ればプロジェクトの成否にも影響を及ぼすという大きな責任がある中、常に冷静かつ論理的に考えることを心掛けました。ほかの銀行にも適宜、進捗状況を共有しながら、何百ページにも及ぶ契約書やデューデリジェンスに関するレポートを見直し、すべてのステークホルダーが満足する形を追求し続けました。そうして最終的には無事、プラントを完工し、2020年から運転を開始することができました。この経験から、プロジェクトファイナンスにおいて、デューデリジェンスやキャッシュフローを確認し、あらゆるリスクを事前に想定しておくことが、いかに重要であるかを学びました。
世界が脱炭素社会に向けて急速に変化していく中、私たちの部署でも脱炭素関連の新規案件に積極的に挑戦しています。その一つが、アメリカ・カリフォルニア州で水素ステーションの開発や運営を手掛けるスタートアップ企業・FirstElement Fuel, Inc.への出資です。カリフォルニア州は世界最大の水素自動車のマーケットであり、同社は世界最大手の水素販売事業者として業界をリードする存在です。当行でも、水素ビジネスに対する知見獲得の必要性が高まる中、2022年から私が同社に出向することになりました。
金融のチカラで、0から1を生み出したい
現在は同社で、資金調達面のサポートをはじめ、事業のコスト分析や戦略立案、カリフォルニア州で導入されている低炭素燃料基準(Low Carbon Fuel Standard)における環境クレジット制度の分析など、幅広い業務に携わっています。世界最先端の知識を有する専門家と日々協働する中で、脱炭素ファイナンスのプロとして新たな知見を深めています。事業自体はまだ成長途上であり、課題もあります。水素ステーションはガソリンスタンドよりも圧倒的に数が少ないため、現状では利用者の行動範囲が制限されています。一方で、燃料電池で走行する水素自動車には、重たいバッテリーを搭載する電気自動車に比べ、積載量を増やせるというメリットもあります。そうした利点を活かし、物流業界における水素自動車のシェア拡大も視野に入れ、自動車メーカーと協働してマーケット全体を盛り上げていくことが重要だと感じています。
新しいことを始めるうえで、金融のチカラは不可欠であり、0から1を生み出す事業をサポートすることがプロのバンカーの使命だと感じています。その際、ファイナンスの知識に加え、各事業に対する高度な専門知識を備えていれば、事業の社会的意義やリスクを正確に判断することができます。今はまだ、新しい存在である水素自動車も、いずれは社会にとっての当たり前になるかもしれません。今後も脱炭素ファイナンスのプロとしての知見を深めながら、将来的には誰も経験したことのないような新領域に挑戦したいです。