市場領域のデータサイエンティストとして新たなソリューションの提供に挑む。
このストーリーのポイント
- 大学院では専門知識を体系的にキャッチアップする力を磨く
- ユーザーとの距離の近さに惹かれて入行を決意
- データサイエンティストとして機械学習モデル提供の全プロセスに携わる
陳腐化しないスキルを身につけたいとの志で、金融工学を使う業務に携わるべく三菱UFJ銀行に入行。クオンツエンジニアとして実績を重ねた後、新たに発足したチームでデータサイエンティストとしての一歩を踏み出した。“巨大組織の中のベンチャー”のような環境で、新たな貢献のためのチャレンジを続けている。
-profile-
三桝 雄大
三菱UFJ銀行
市場企画部 市場エンジニアリング室 クオンツ開発グループ デスククオンツ&イノベーションライン
2015年入行/情報学研究科社会情報学専攻修了
経済学部を卒業後、大学院に進み社会情報学専攻で暗号理論について研究する。数理的専門性を活かしつつ、金融工学を土台に自らコードを書き業務に貢献できることに惹かれて、三菱UFJ銀行に就職。入行以来、市場企画部市場エンジニアリング室(旧・市場業務開発室)に所属。現在はデータサイエンティストとして社内ユーザーへのソリューション提供に取り組む。
自らの専門性を活かすと同時に普遍的なスキルを身につけるために
私がコンピュータに興味をもったのは、学部在籍中にインディーズゲームにはまったことがきっかけでした。ネットワーク対戦を楽しみたいという思いが出発点となり、プログラミングやサーバ管理技術なども独学で習得。チームを組んで競技プログラミングの大会にも取り組みました。一方、学部のゼミではイノベーションについて勉強、実践するゼミに所属していたのですが、自分のものとして体得できた実感が得られず、やはりゆるぎのない核となる何らかの専門性を身につけなければという思いがありました。情報系の大学院に進学したのは、そうした思いからでした。
覚悟の上ではあったものの、数理系の基本的なバックグラウンドが理学系出身者と比べて不足していた私にとって研究生活は簡単ではありませんでした。それでも暗号の手順(プロトコル)を提案し、自分で安全性を証明するという論文を、修士の2年間で2本発表できました。
今振り返ると、大学院で苦労して学んだことで、未知の分野、新しい知識などをキャッチアップする力を磨けたと思っています。ゲームへの興味が出発点だったように、入り口は自分の好きなことでかまわないでしょう。しかしその先に歩みを進め、論文をまとめ上げるには、好きなことにのめり込むだけでは不十分で、何らかの専門性を体系的に習得していく必要があります。大学院で私はそうした強みを身につけることができました。
私が今所属しているクオンツ開発グループには、数理的な専門性をもつ人材が集まっています。その中で事業側にソリューションを提供するという機能を果たすためには、先端理論を吸収して社内に還元していかなくてはなりません。そのミッションを果たす上で、新しいことをキャッチアップする力は私の大きな強みとなっています。
就職では当初、ソフトウェアエンジニア業界を志望し、Web系企業の内定も得ていました。そんなときに友人から聞いたのが、クオンツという仕事でした。調べたところクオンツは数理的な専門性を活かし、金融工学を土台に専門家として事業貢献できる職種であることを知り、強い興味を抱きました。陳腐化しない専門性を身につけたいと考えていた私にとって、長年使われており既に土台のある金融工学の専門家として自らプログラミングし、社会的にも大きな影響を与えうるデリバティブに関わる業務に携わることはとても魅力的に思えたのです。
そこで就職活動の仕切り直しとしては遅い時期ではあったものの、クオンツの世界に飛び込むことを決心。トレーダーなどのユーザー側と直接コミュニケーションを取りながらシステムを開発し、貢献していく仕事に挑むことにしたのです。
ユーザーとすぐに話し合える、距離の近さが魅力
三菱UFJ銀行への入行を決めた大きな理由の1つが、職場環境です。トレーダーやセールスといったユーザーと同じフロアにクオンツがいて、それこそ10秒も歩けば相手の席まで出向いて話ができます。この距離の近さは大きな魅力でした。ビジネスの現場には正式に案件化するほどでもない“小さな案件”が山のように転がっています。気軽なコミュニケーションによってそれらをピックアップし、“小さなソリューション”を提供できる環境があると感じました。
この距離の近さは、実際に入行してその通りだと実感しました。チャットで話をする中で何かあれば、相手の席まで歩いて出向き、同じ画面を見ながら話し合う、そんな環境を大変気に入っています。
金融機関ですから堅苦しい雰囲気があるのではと懸念していたことも確かです。しかし私の所属する部署は、独特の空気感をもっています。高いスペシャリティをもった専門家同士が気さくに議論を交わしていて、イスに座ったままちょっと振り返って声をかけディスカッションする、そんな大学の研究室に近い雰囲気です。
中途入社の仲間も徐々に増えてきて、多様なバックグラウンドをもつメンバーが刺激を与えてくれているという側面もあります。こうしたオープンで自由なカルチャーは、心地よいものです。
入行して現在の職場に配属され、金利系デリバティブの価格やグリークスと呼ばれるリスクを計算するプライサーアプリケーションの開発を担当しました。その後、金利為替デリバティブの評価モデルを開発するチームに移り、イールドカーブのライブラリと周辺ツール、ロジック開発に従事。これは現在も続けています。
そして2021年の4月から兼務という形でデスククオンツ&イノベーションラインにも参画し、データサイエンティストとしての業務に携わっています。
デリバティブへの規制が強化される中、単にデリバティブの新商品を開発するだけで新たな強みとすることは昔より難しくなってきています。そのような状況で事業部に対する私たちのソリューション提供力を高めるには、提供するソリューションの幅そのものを、これまで専門としていたデリバティブ関連業務の範囲を越えて広げていかなくてはなりません。機械学習を使ったソリューション提供がその手段になり得ると考え、自ら希望して携わることにしました。“先陣を切る”感覚でした。
データドリブンな経営を実現する、その第一歩として
発足して間もないこともあってデスククオンツ&イノベーションラインのイノベーションチームの人数は少なく、三菱UFJ銀行という巨大な組織にありながら、ベンチャーのような存在です。そのため行内で案件を発掘するところから始まり、モデルを学習させてデプロイし、その後モデルドリフトを監視、モデル改善を行うところまでトータルに携わっています。また機械学習モデルの開発をチーム内で競うため、チーム内コンペのスコア計算システムをAWS Lambda、S3、EC2で構築するなど、必要なことは何でもやっています。このように、現時点では必要なことは上流から下流まで何でも取り組む必要があり、そのために使える技術の選択肢も多く、とても刺激的な毎日を過ごしています。まだまだ機械学習モデルの作成だけ、MLOpsだけなど狭義のデータサイエンティスト、機械学習エンジニアとして細分化された仕事に特化する段階ではありません。
デスククオンツ&イノベーションラインが立ち上がってすぐ、市場系商品のセールス向けに既存のルールベースのモデルをエンハンスした機械学習モデルを提供しました。他部署を含めた関係各所の協力もあり、1つの実績として残すことができました。
もっともユーザーにしてみれば、私たちのことはまだまだ「いったい何をしてくれるチームだろう」と一部の方に興味を持っていただき始めた段階でしょう。もっと多くの方に知ってもらい、”興味”を持ってもらい、その“興味”を“期待”に変え、そして“信頼”へと結びつけていく、その第一歩を踏み出したばかり。今はしっかりと結果を出していくことに注力したいと考えています。
根底には、三菱UFJ銀行の事業に貢献し、その先にいるお客さまのチカラになりたいという強い気持ちがあります。アカデミックな研究所との違いは、ここが一番大きいでしょう。銀行の中に置かれた組織として銀行のためにチカラを尽くすのは当然のことです。わかりやすくいえば「一緒に働く仲間のチカラになりたい」という想いです。“徒歩10秒の距離”だからこそ、そうした気持ちも自然にわいてくるのでしょう。
金融機関は多様で膨大なデータを所有しています。決済のデータ、市場性商品の取引データ、マーケットデータ等々…。それらのテーブルデータ、時系列データはもちろんのこと、金融独特の文脈で綴られた契約書といった自然言語データ、取引に際して使っている電話の音声データなど、形式も様々です。
データドリブンな経営を実現する上でこれらのデータの有効活用は避けては通れませんが、情報セキュリティの観点から容易に外部に出せるものでもありません。だからこそ我々のような内部のデータサイエンティストがデータをもとに案件化をサポートすることで、これまで現場で眠っていたデータ活用の道が開けてくるのです。今後金融業界でのデータサイエンティストの役割はさらに広がっていき、事業側へのソリューション提供のみならず、当行が「世界が進むチカラになる。」第一歩へと繋がっていくことでしょう。道は大きく開かれています。
ベンチャーのようなワクワク感を一緒に楽しみたい
私の所属するデスククオンツ&イノベーションラインは市場部門の中にあり、現在は市場領域に関連した業務が中心ですが、今後は市場領域以外の領域にもチャレンジしていきます。チームにはクオンツスキルをバックグラウンドに機械学習にリスキリングする人材が多く、数理的な強みを持つ人たちとともに業務に取り組むことができます。
何よりも、誕生してまだ1年にもならないチームということで、案件の進め方自体の“型”も固まっておらず、案件のタネを見つけてくるところから取り組まなくてはなりません。これからそういった“型”を0→1で作っていく、ベンチャーのようなワクワク感は大きな魅力でしょう。また大企業の中で多少の制約はあるものの、自分たちで適切なAWSサービスや技術、言語を選択して、やりたいと思ったことを自分たちで試作できる環境があることも魅力でしょう。
私たちは大企業の中でこのような市場領域に限らない銀行業務を対象に、数理的な強みを持つチームで、0→1を生み出し、自由度のある技術選択ができるベンチャーのような環境を一緒に楽しめる方にこそ、仲間に加わっていただきたいと考えています。
データサイエンス業務の上流から下流まで主体的に携わり、ユーザー本位でソリューション提供に取り組める環境は、すでに他業界でデータサイエンティストや機械学習エンジニアとして業務に取り組まれていた方にとって、これまでよりも業務領域・扱えるデータの幅を広げ、挑戦、成長できる機会になると考えています。金融業界の出身である必要はありません。金融のドメイン知識は入行後の研修や、仕事の中で学ぶことになりますので、金融に興味をお持ちなら大丈夫です。
またKaggleやその他データ分析コンペティションで入賞したり、MLOps基盤を構築・運用されていたり、AWSで業務インフラを組んだことがあるといった実践的なスキルは必須ではないですが、歓迎します。
私は金融工学・デリバティブ領域のドメイン知識、エンジニアリング領域での強みを身につけ、現在はデータサイエンティストとして新たに機械学習についての専門性を習得しようとしています。当行が、「世界が進むチカラ」となり、将来的には社会全体にインパクトを与えるようなソリューションを提供できたらと考えています。
まずは直面する課題としっかり向き合って地道にソリューション提供の実績を積み上げていきますが、新しいことに挑むのはいつだって気持ちの高まることです。私のチャレンジも始まったばかりです。