“発明研究所”のスピリッツを受け継いで、カヤバの未来を広げる製品開発に挑む。
“発明研究所”のスピリッツを受け継いで、
カヤバの未来を広げる製品開発に挑む。
このストーリーのポイント
- 電気電子系人材への期待の高さを感じて入社を決める
- 自ら見つけたテーマで、新製品の研究開発に挑む
- モノではなくサービスの販売という、カヤバの新たな領域へ
油圧機器メーカーであるカヤバで現在開発が進められているのが「油状態診断システム」である。メーカーのカヤバがなぜサービスの開発に取り組むのか。その背景には、自ら新しいテーマに挑戦することを後押しする、カヤバならではの風土がある。
カヤバ株式会社
ハイドロリックコンポーネンツ事業本部
技術統轄部 システム技術部 設計室
2011年入社
千葉県出身。先進理工学研究科ナノ理工学専攻修了。ものづくりに興味があったことと、電気電子系人材への期待の高さを感じて、入社を決める。基盤技術研究所に配属され将来製品の開発に取り組み、現在は事業本部にて量産化開発を進める。入社から現在まで、神奈川県相模原市の事業所にて勤務。一男二女の父親として、休日は子どもたちの習い事に付き添って過ごしている。
独立系メーカーならではの多様さに惹かれて
大学院では基礎物質を研究する研究室に所属し、半導体に不純物を注入する装置を使っていたところ、その装置に改良を加えることに面白みを感じるようになりました。電気電子系で学びながらメーカーを志望するようになったのは、その体験がきっかけです。
カヤバのことは大学の就職課の方に紹介されて知りました。当時の私はカヤバのことをまったく知らなかったのですが、帰宅後に家族に話してみたら、伯父が勤めていると聞かされたのには驚きました。一気に親近感が高まったことを覚えています。
企業研究を進めたところ、ショックアブソーバで有名な自動車関連企業ということがわかりました。「KYB」というロゴも、ミキサー車で見かけたことを思い出しました。
独立系メーカーのため、すべての完成車メーカーと取引できる点、自動車以外にも多様な事業を展開している点は、特に魅力を感じました。
また、メーカーであるカヤバには機械系の技術者が多く勤務していたものの、電気電子系人材の採用にも力を入れていました。その1人として、期待されながら入社するということも意気に感じました。
入社5年目、技術者としての勝負に踏み出す
入社して配属されたのが、基盤技術研究所電機電子研究室(現 情報技術研究室)です。文字通りカヤバの基盤となる技術を研究する部署で、結局ここには入社以来12年間所属することになりました。自分に何ができるだろうかという不安はあったものの、研究部門ということで技術者として期待されているという思いも強かったです。
カヤバのルーツは、1919年に創業者である萱場資郎が開設した萱場発明研究所です。その名の通り“発明”こそがカヤバの原点であり、研究所はそのスピリッツを最も強く受け継いでいると自負しています。新しいことにチャレンジできる、素晴らしい環境だと感じました。
1年目は先輩の研究テーマのサポートをしながら仕事を覚え、2年目は回路設計グループに異動してバッテリ制御システムの開発を担当しました。各種セミナーにも積極的に参加させてもらい、多くのことを学びました。そして4年目には電動モータ開発グループに異動。電動モータの改良設計業務に従事しました。
この間、原理試作で終わったケースがほとんどで、量産化まで至ったことはありませんでした。もちろんすべての開発テーマが最終的には量産化を目指してはいるものの、そこに至らずに終わるケースも少なくありません。市場からの引き合いがなければ当然のことです。その意味では私自身は足跡を刻めなかったかもしませんが、この4年間で身につけた評価の技術や回路設計技術は、技術者としての私の財産になっていますので、決して遠回りをしたとは思っていません。
会社も量産化だけを評価するのではなく、開発や研究の過程もしっかり評価してくれます。短期的に結果を求めるのではなく、長期的な視点で技術者を育てる、そうした風土がカヤバにはあると思います。それもまた、“発明”のスピリットなのでしょう。
そして5年目、転機が訪れました。その前まで担当していた電動モータの開発が終了したことに伴い、電機電子研究室のメンバーで新しい開発テーマを探していこうという気運が高まったのです。そこで先輩と2人、ブレーンストーミングのようにお互いにアイデアを持ち寄り、時には新技術関連のセミナーにも参加するなど、研究テーマにつながるネタ探しを進めました。
背景には、電気電子系の技術者としてそろそろ足跡を刻みたいという個人的な思いと同時に、カヤバの成長のために新しい領域に進出したいという思いもありました。
この時間はとても楽しかったです。お客様からの依頼に紐付いたものではない、つまり何の制約もない状態でのテーマ探しだったので、本当に自由に発想を飛躍させることができました。そうした中で生まれたのが、「油状態診断システム」の開発というテーマだったのです。
壁を乗り越えながら、走り続ける
インフラ等の老朽化が社会問題となる中、様々な業界で設備や構造物のメンテナンスが課題となっています。安全性を低下させることなくメンテナンスコストを削減させることが求められ、特にIoTの活用による予防保全が注目されています。こうした背景のもと、カヤバが得意とする油圧機器に関してはトラブルの約6割が作動油の酸化や汚損といった劣化が原因であり、リアルタイムで油の劣化状態を検出できるシステムへの市場ニーズは高いと判断しました。
私たちはこの開発テーマの可能性の高さを実感。自主テーマとして取り組むことを決定し、他社品調査→原理試作→開発→事業部への移管という流れで取り組みをスタートさせました。
自主テーマですから、お客様からの引き合いがあったわけではなく、当然ながら要求仕様もありません。サイズも含めて、どういった仕様で開発を進めるか、まったくの手探りでした。制約がなく、自由だったことは確かですが、それゆえの難しさがあったわけです。まさにゼロから畑を耕し、タネを植えていく感覚でした。
原理試作では、センサの内部のインサート製品づくりに苦労しました。これは油の状態を監視するセンシング機能を搭載した樹脂製品です。どのようなサイズがセンシングに適しているか、手探りでしたし、成型してくれる協力業者も自分たちで探し出しました。試作してはやり直し、試作してはやり直しの連続でした。
センサですから、性能は重要です。しかし高性能すぎてオーバースペックになっては、市場のニーズとズレてしまいます。なにしろ前例のないことばかりでしたから、迷いながらの取り組みでした。試作品は「IFPEX」という油圧・空気圧・水圧国際見本市にも出展。社外での実証実験に道筋をつけることもできました。
いくつもの壁を乗り越えながら、手探りで少しずつ前進していく中、自分で決めたテーマに沿って自主的に取り組むことの喜びが常にありました。走り出したら全力で進むだけ。カヤバでのものづくりの真髄を味わえたと感じています。
そして量産化へ。カヤバの新しいシーズが実を結ぶ
開発をスタートさせて8年目。ついに「油状態診断システム」が研究の段階から事業の段階へと移行することが決まり、開発者である私もこのシステムと一緒に事業部に異動しました。2023年のことでした。事業部移管が決まったときは、やっとここまでたどり着いたという熱い思いがわき起こってきました。
もちろん事業部移管は簡単なことではありませんでした。量産化に向けて上層部を説得するためにはその材料集め、要するに「油状態診断システム」の有効なデータを収集しなくてはなりません。そこで社内に協力を仰いで「ポンプが壊れて困っている」という声を耳にしたら駆けつけてシステムを取り付けさせてもらったり、公道を走るミキサー車にも付けさせてもらったりしました。地道に実証データを集めて、説得材料を積み重ねていったわけです。そうした取り組みが功を奏し、事業化につながりました。
現在はセンサ開発だけでなく、システム化に向けた診断アルゴリズムやアプリ開発なども併せて進めており、2026年の市場リリースを目指しています。どのような形でお客様にサービスを提供するのか、その方法も検討しているところです。ビジネスモデルを構築することは私にとってまったく未知の世界ですから、これも新たなチャレンジです。
総合油圧メーカーであるカヤバは、様々な油圧製品を世界中に提供してきました。ものづくり企業として事業を展開してきたわけです。その中で私の開発した「油状態診断システム」はサービスを提供する、つまり「モノ売りではなくコト売り」という点でカヤバに新しい可能性をもたらすと考えています。カヤバでは他にも「スマート道路モニタリング」というサービスの開発を進めており、新しい領域に積極的に挑んでいます。こうしたチャレンジの一端を担えていることを、誇らしく感じています。
今後の目標は、言うまでもなく「油状態診断システム」を予定どおり市場に送り出すことです。ハードルは多かったですが、ようやくあと一歩のところまで来ました。リリース後の市場の反応が今から楽しみです。
入社前に感じた独立系という魅力は、顧客や系列に縛られずに自由な開発テーマに挑める点にも反映されています。そして、伸び伸びと発明にチャレンジできる点にも、カヤバらしさを感じています。
今後は量産化を通じて「油状態診断システム」を確かな事業へと育てていくことが私のミッションとなります。このやりがいあるテーマに、ぜひ皆さんも一緒に挑戦してみませんか。