IBMのデザイナーの仕事は、ビジネスのすべて。ミッションは、DX変革の推進役となること。
このストーリーのポイント
- 高度デザイン人材が活躍できるフィールドを求めてIBMへ
- “つくること”だけでなくその前後にも関与できる面白さがある
- かつてなかったデザイナー像を創り出したい
広告への興味からスタートしたデザイナーとしての道。ビジネスの推進者としてデザインの力を発揮したいと考えて、IBMへの転身を決める。クライアントのDX変革をサポートする中、これからの時代に真に必要とされるデザイナー像を体現している。
-profile-
工藤 大貴
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBM Consulting DXA C&D シニアUXデザイナー
2018年中途入社/視覚伝達デザイン学科卒
都内の中規模デザイン会社に新卒として入社。エディトリアルデザイン、Webデザイン、サービスデザインによる新規事業創出等、約3年間にわたって幅広く経験を積む。コンサルタントやエンジニア等のプロフェッショナルと対等に協業しながら価値創出できる環境で働きたいとの希望で転職を決意し、IBMに入社。UXからDX変革を推進する高度デザイン人材として活躍中。
他のプロフェッショナルと対等に共創できる場に
私がデザイナーを志した起点は、高校時代にたまたま目にした新聞広告です。デザイン、写真、コピーが一体となったメッセージに魅力を感じ、自分もこうした広告をつくりたいと思ったのです。そこで選んだのが美大への道でした。
美大では当初の希望通り広告に関する表現や考え方を学んでいましたが、続ける中で「表現の巧拙を極めるより、もっとビジネスに密接した『手段としてのデザイン』を深掘りしたい」という想いが強くなりました。そこで卒業後の進路として、より広い分野でデザインを実践できる企業を志望しました。
新卒で入社したのは都内の中規模デザイン会社です。ここでは3年間、ウェブサイトから印刷媒体まで幅広い領域で仕事をしました。特に「サービスデザイン」と呼ばれる領域ではクライアントの新規事業創出をデザイン思考で支援するという、まさに大学時代に私が求めていたデザインの在り方を経験することができました。一方でデザインだけを学んできた自分にとって新しいビジネスを生み出すということは容易ではなく、その達成には各分野のプロフェッショナル、例えば各業界を深く理解したビジネスコンサルタントや最新技術に長じたエンジニアなど、多様な知見の中でデザインを実践することが重要だと痛感しました。「高度デザイン人材」と呼ばれるスキルセットはこれらを単身で実現するスーパーマン的存在を連想しますが、いきなりそうなることはできません。この壁を乗り越えるためにデザイン以外の分野にも強い環境に移り、その中での協業・共創を通じて自分のスキルを磨くことを次の目標としました。
当時の私は、デザイナーという職種がIBMに必要とされているとは想像もしていませんでした。ですからデザイナー募集の求人を目にしたときは驚くばかりでした。
企業研究を進めたところ、IBMはクライアントのDX推進に際してデザイン思考を大切にしており、高度デザイン人材が活躍するフィールドがあることを知りました。また私はデザインの仕事をする上では常にロジカルに考える姿勢を貫いてきたため、そうした思考力が十分な武器になるとも感じました。当然ですが「このデザインは気持ちいいね」という言葉だけではビジネスは動かせません。「コストはいくらかかるのか」「実現する技術はあるのか」という問いを突きつけられます。その壁を乗り越えるために、ロジカルな思考力は不可欠なのです。
何よりもコンサルタントやエンジニアと対等の立場でお客様に向き合えるIBMの環境は、この上なく魅力的に感じられました。
つくることだけがデザイナーの仕事ではない
IBMにおけるデザイナーの仕事は「あるべき体験を作るために必要なすべて」です。
例えばクライアント社内の業務改革プロジェクトがあるとします。紙に依存していた業務をDXして……というのは定番のテーマですが、その際には画面が必要となり、デザイナーの仕事はそれを設計することが主となります。ただ、一口に画面を設計すると言っても
・どんな人が使うのか?
・どんなシーンで使うのか?
・その体験による価値はなにか?(定量・定性の両面)
といったことに基づいていなければ、デザイナーの独りよがりにしかなりません。またクライアントの担当者や意思決定層が求める結果と現場の社員の方が求める価値が異なる場合も少なくありませんから、こうした複雑性の調整も含めてワークショップやユーザ調査など、「つくる前の工程と合意」が非常に重要です。
当然のことながら既存のやり方を変えていくDXには、大なり小なり反発が存在します。デジタル化されれば良い、効率的になりさえすれば良いというわけではないのがこうしたプロジェクトの難しいポイントです。
「つくる」過程においても、早期にその価値や問題点を探るために試作と検証を多数繰り返します。とあるプロジェクトでは、初期の検討段階でオペレーションの設計や技術的な観点で議論が空中戦になりかけていましたが、数十枚の手書きノートでシステム全体のイメージをその場で作成し「求めている体験はつまりこういうことですよね」と提示したところ、最終的にプロジェクトメンバー全員が同じ方向を向くことができました。こういった「最初に答えからつかむ」ような感覚もデザイナーには必要になります。それによって早い段階から反発や問題を洗い出すことができ、対策を立てたり改善したりすることも容易になります。
「つくった後」も同様です。リリースされると、プロジェクトメンバーの誰もが予想しなかった問題が顕在化することは必ずあります。最初のリリースはあくまで1回目のサイクルであり、本来は適用→分析→改善のサイクルをどんどん回すことでプロダクトもサービスも成長していくものです。「つくった後」に誰かが自分の思考をトレースできること、すなわち検討のロジックと転換の道筋をプロジェクトメンバーが引き継いでいけるようにすることが重要です。そのため考えをブラックボックス化しないことは常に意識しています。
デザイナーという職能ですから「つくること」がとても重要な仕事の一つですが、その前後も含めて幅広く関与できることがIBMにおけるデザイナーの面白さであり、難しさでもあると考えています。
「デザイナー」という肩書きに込めること
このように責任を持つ仕事の範囲の広さを考えれば、旧来的な「デザイナー」という肩書きは果たして適切なのかということはいつも疑問に思います。「UI/UXデザイナーです」と名乗れば少なくない方が「あぁ、画面をつくる人なのね」と感じることでしょう。ですが、ワークショップの組み立てを考えたりユーザ調査を計画したり会議や関係者間の調整を行ったりすることも、私にとっては「デザイン」の一部です。そうしたニュアンスで「デザイナーです」と名乗りたいのですが、社内も含めてその認知には壁があることも事実です。
当面はデザイナーという肩書きを外しても仕事ができることを目標にしています。新規事業の多様化やデバイスの進化に伴って、デザインする対象も今後どんどん増えてくることでしょう。肩書きにも守備範囲にも依存せず、様々な専門家と共に新しい領域に常に好奇心を持って挑戦することこそが、最終的にはクライアントや社会のためになるはずです。
そうした活動を通じて、クライアントの課題を解決するための最上流を含む、どんなフェーズにおいてでも活躍ができる在り方を目指し、最終的には「これこそが『デザイナー』なのだ」と胸を張って言えるようになれたらと考えています。