【特別対談】VUCA時代に求められる“人財”になるための「キャリア形成」(後編)
人生100年時代 会社選びの新たな基準とは
後編のポイント
- 自分のキャリアは自らが戦略的にハンドリングするべき。
- 個人の市場価値を高めるために20代でやるべきこと。
- プロティアンなキャリアを形成するための会社選びの軸とは。
(前編からつづく)
人生100年時代を迎えるなか、生き方・働き方は大きく変わろうとしています。もはや、終身雇用や年功序列は通用しません。同じ仕事を続けていくことすら難しくなっていくことが想定されます。
そのような環境の変化にどう立ち向かっていけば良いのでしょうか。
これから社会へと羽ばたいていこうとしている学生のみなさんも一度じっくりと自分のキャリアをどう描いていけば良いかを考えてみませんか。
そのためのヒントとなるお話を法政大学の田中 研之輔教授とオリックスの人財開発チーム長 谷川 修一氏(※所属部署・役職は取材当時のものです)に語り合っていただきました。
特別講座の後半は、キャリア戦略の重要性、これから求められる人財像などが主なテーマです。
キャリアを戦略的にハンドリングしていく重要性
――自分のキャリアについて、社員自らが戦略的に考える大切さを就活生のみなさんにアピールしていただけますか。
田中 キャリア戦略はとても大事です。ただ、キャリア戦略はこれが来るからこれをする、というように明確に決めることではありません。余白なのです。余白というのは、こういうことをやっておくと、こうなった時にそのスキルが生かせるかもしれないということ。どんな環境でも成長できるような土壌を作っておくと言ったら良いでしょうか。だから、オリックスのように新入社員が入社後10年で3つの部署を経験するというのは良いことです。例えば、1つの事業のみに10年間携わっていて、仮にその事業が新しいサービスに取って代わられて無くなるとしたら他のキャリアにシフトできなくなってしまいます。何十年後のキャリアとなるとなかなかイメージできないので、まずは3年、5年後のキャリアの方向性から自分の考えをスタートしてみましょう。これからは戦略を持って自分のキャリアをハンドリングしていくことが求められてきます。
谷川 私の学生時代にはそういう考え方を聞くことはありませんでした。でも、これからは就活生や大学生に限らず、ビジネスパーソンにも必要な考え方ですね。
田中 ビジネスパーソンなら経営戦略や事業戦略を日頃から考えているでしょう。組織内のキャリアから個人を主体としたキャリアへとシフトした時代において、なぜ「キャリア戦略」を考える機会がないのでしょうか?これは、日本の決定的な問題だと考えています。ビジネスパーソンであれば誰であっても、どの方向に進めばビジネスが伸びるかという事業戦略を練るはずです。その事業戦略を生み出すのは「人」です。組織のなかで一番大事なのは「人」という理解はできているのに、その「人」を大事にすることをなぜ戦略的に考えないのか疑問です。その人自身が戦略的思考をもって、キャリア戦略と事業戦略、経営戦略の3つを上手くやっていく会社がもっと増えても良いと思います。オリックスならできるはずですし、そういうパイオニア集団になってほしいと思っています。
問われているのは個人としての市場価値 20代で何をやっておくべきか
――今や業種・業界の枠を越えて、新規事業を展開する動きが加速しつつあります。ビジネスに求められる資質や人財の市場価値も大きく変わりつつあるのでしょうか。
谷川 例えば、モーターショーで電機メーカーがEV車を発表したり、自動車メーカーが車を展示しないようになったりと、今までの常識が常識ではなくなっている時代です。日本の屋台骨となっている事業にも、もはや境目がなくなってきているとしたら、その他の事業はなおさらです。そうした状況のなか、自分らしく働き、ビジネスパーソンとしてのスキルを上げていくには、従来からの思い込みを捨てるなどの柔軟性が求められていくと思います。この変化へのスピード感にいかに対応していくかが問われています。
田中 オックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授が、AI時代の到来で約半数の仕事がなくなると言いました。学生たちも、「どの業界の仕事がなくなるんですか」と聞いてきますが、それは大事なことではありません。仕事に携わる前から「仕事がなくなってしまったらどうなりますか」といった悲観的な見方だけは、やめてほしいですね。むしろ、AIとかIoTに置き換わり、従来とは異なる新たなビジネス・サービスや製品が普及するとビジネスパーソンの活躍の可能性は広がっていきます。今まさに求められているのは、独自性と無限性です。ニーズに合わせてどんどん変化する。変化を楽しみながら仕事のやりがいを見つけられる。そんな人が市場価値を上げ、結果的に市場価値の高い人になるのだと言えます。学生のみなさんには、自分が無限に活動したからこそ、自分が予想もしない世界に挑戦できたというようなキャリア形成をしてほしいですね。
――市場価値が高い人財へと成長していける会社として、オリックスは条件を兼ね備えているのでしょうか。
谷川 オリックスはファイナンスという軸はあるものの、昔から事業形態を大きく変えてきました。常に新規事業にチャレンジし続けている会社です。これからもどういう形で事業を展開していくか分からないなかで、20代でキャリアを固定させてしまうと、新しいビジネスに挑戦したいと思った時に機動性に欠けてしまう可能性があります。それに、そもそも自分の可能性や適性を、入社段階で判断するのは早いと思っています。異動するにあたっては、年齢に関係なく、ある一定の期間一つの部署に在籍していたら自分で手を挙げて次のキャリアに挑戦できるという制度があります。
田中 変化に適応していくために、体系化されたキャリア・デザイン研修が用意されている点も、オリックスの素晴らしいところです。人を大事にしている会社であるのが伝わってきます。
谷川 オリックスの社員も異動により、これまでと異なる事業に携わることに不安が全くないという訳ではありません。ただ、キャリア・デザイン研修での後押しや会社に確かな成長基盤があることが、社員の精神的な支えとなり、積極的に挑戦できる企業文化を形成していると思います。
田中 人生100年時代と言われる世の中ですから、働くことと生きることがこれまで以上に長くなります。オリックスのように社内で成長できるが、もし壁にぶつかった時にはこういった研修制度を活用し、自分を見つめ直してみようという取り組みが全社レベルで実践できている例は、あまり聞かないですね。
プロティアンなキャリアを形成するための会社選びの軸
――最後に、学生に会社選びのアドバイスをお願いします。
谷川 世の中は変化が激しく、事業の境目がなくなってきていますし、働き方も多様化しつつあります。もはや、キャリアを形成するのは一つの会社、一つのスキルだけではないのです。そうしたなかで、自分の可能性や適性が生かせるキャリアの余白をどれだけ作れるか、社会の変化に柔軟かつ機動的に動けるビジネスパーソンになれるか、という点で、ファーストキャリアの会社を選ぶことがとても大切だと思います。その視点から、「オリックスであればどんなキャリアを描けるのか」「何故ビジネス資本を蓄積できるのか」を就活生にしっかりと伝えていきたいです。
田中 学生のみなさんに伝えたいのは、これから長く働くことが明白であるということです。しかも、これからの時代は我々が経験したこともないような激しい変化を伴うと思います。変化に適応することは、新たな可能性を生み出すことであると考えています。だからこそ、ビジネス資本を戦略的に蓄積していき変幻自在にプロティアンなキャリアを歩んでほしいのです。大学から社会に一歩踏み出してみると誰もが必ず想像とのギャップを感じます。そのギャップを可能性に変えられる職場、会社を選んでほしいと思います。オリックスのように、自己成長の機会を自ら取りにいける、まさに「プロティアン・キャリア」を構築できる土台・土壌がある会社を選ぶことで、変化に適合しながら「キャリア形成」していくことが可能となるのです。