『想いと想いをつなぐ演奏機会』音楽の「共奏」から始まる、未来の「共創」

『想いと想いをつなぐ演奏機会』音楽の「共奏」から始まる、未来の「共創」

『想いと想いをつなぐ演奏機会』
音楽の「共奏」から始まる、未来の「共創」

世界中の子どもたちに音楽や楽器演奏の楽しさと学びを届ける「スクールプロジェクト」。場所の制約を超え、自由にセッションしたい人たちの願いをかなえるアプリケーション「SYNCROOM(シンクルーム)」。この二つの取り組みは、アナログとデジタル、教育と余暇活動というように、一見、なんの共通点もないように見える。しかし、どちらも「合奏の喜びをより多くの人に届けたい」という想いから生まれてきたものだ。この共通の「Key」に突き動かされて、今日も世界のあちこちで、想いと想いをつなぐ共奏の輪が広がっている。

※記事内の所属は取材当時のものです

音を重ねることは、こころを重ねること

ヤマハは楽器を製造・販売するだけでなく、楽器演奏の機会も提供し、音楽文化の持続的な発展に取り組んでいる。楽器を奏でる喜びや、仲間と音を合わせる時のワクワク感こそが、人生を豊かにしてくれると信じているからだ。そんなヤマハの想いを凝縮した活動の中に、SYNCROOMとスクールプロジェクトがある。

SYNCROOMは極限まで音の遅延をなくすことで、リモートでも互いの音が違和感なく重なる演奏体験を実現した。音にズレや乱れが生じると、互いの心にもズレを感じてしまう。「逆に、遅延がほとんどない状態だと、同じ空間を共有できているという実感が湧いてくるのです」とSYNCROOMの企画・マーケティングを担当する北原英里香は説明する。「合奏しないで、おしゃべりだけを楽しむツールとしてSYNCROOMを使うユーザーもいるくらい」。それほどまでに、こころを通わせやすい環境を整えることに成功したのだ。

yamaha-st04-02.jpg

ミュージックコネクト推進部 サービス企画・開発グループ 北原英里香

北原は続ける。「セッションする時には、みんな他の人の音を確認しながら、自分の音を乗せていきますよね。そうやって、音がピタッとそろった時に、気持ちもひとつになるのだと思います。SYNCROOMは、そういう合奏の感動をオンラインでも味わえるようにしたのです」。

スクールプロジェクトもまた、新興国の子どもたちへの音楽・器楽教育という形で合奏する喜びを広げている。「スクールプロジェクトが始まって、学校に行くのが楽しくなった」と目を輝かせて話す生徒も少なくない。プロジェクト運営とインクルーシブ教育の推進に携わる林 彩花は、ポイントは他者との共奏にあると話す。「ひとりで演奏して完結する音楽もありますが、合奏は複数の音が集まって初めてひとつの楽曲が完成します。みんなで創り上げるところが醍醐味であり、お互いを尊重する心を育むことにもつながっていると思います」。

yamaha-st04-03.jpg

楽器・音響営業本部 AP営業統括部 音楽普及グループ 林 彩花

お互いに耳を傾けるからこそ、それぞれの音色を生かしてひとつの音楽を紡ぎ出すことができる。だから、スクールプロジェクトでは「協働」をひとつのキーワードとして活動しているのだ。スクールプロジェクトの運営とデジタルコンテンツ制作を担当する渡辺一樹は「“みんな同じ”の同調圧力ではなく、互いの個性や意見を認め合いながら協力すると、新しいなにかを創り出すことができる」と語り、音楽・器楽教育にはそういう協働性を育む可能性があると力を込めた。「子どもたちが合奏を通して身に付けるその力が、他者とのコラボレーションを生み、その先のイノベーションにつながっていくと信じています」。

yamaha-st04-04.jpg

楽器・音響営業本部 AP営業統括部 音楽普及グループ 渡辺一樹

演奏者から生まれる新しい音楽文化

実際、SYNCROOMやスクールプロジェクトの活動から協働やイノベーションは生まれているのだろうか?

「SYNCROOM上では、ベテランユーザーが困っている初心者ユーザーに使い方を教えてあげる場面や、セッションに誘ってあげる光景は決して珍しくありません」と北原は語る。ヤマハ側もサポート体制を年々強化しているが、それとはまったく別のところで、ユーザー間の支え合いの文化が自然発生的に広がったという。これは北原たちにとっても予想外の喜びだった。「SYNCROOMはユーザー同士のつながりに支えられているサービスだとしみじみ感じています」。

SYNCROOMの開発を担当する山本尚希の元には、「VR(仮想現実)のサービスと連携してSYNCROOMを活用している事例がある」と情報が届いた。開発者の手を離れ、楽しみ方が自然に成長していく。「ユーザーの皆さんが生み出すそういった新しいアイデアに合わせて、私たちもサービスをどんどん進化させていきたいですね」。

yamaha-st04-05.jpg

ミュージックコネクト推進部 サービス企画・開発グループ 山本尚希

一方、スクールプロジェクトを担当する渡辺は、活動を通じて現場の先生や子どもたちが創造性を発揮する場面を目の当たりにしてきた。「インドネシアのある学校では、私たちのプログラムで使用するリコーダーと、現地の伝統楽器である『ガムラン』を組み合わせて、西洋楽器と伝統楽器のアンサンブルを楽しんでいました」。小さな教室の中で、これまでにない、新しい音楽のカタチが誕生したのだ。

どの例からも、他者と共奏するツールを得た人々は、今度は自分たちの手で新たな文化を生み出そうとするのが見て取れる。山本は語る。「ヤマハが一方的にサービスを展開して『こう使ってください』と限定するのではなく、ユーザーの皆さんに自由な発想で使ってもらうのが理想ですよね」。演奏機会を増やす「土台」を整えたら、あとはコミュニティーが自走する。そして、思いもよらなかった使い方をするユーザーと共に、サステナブルな音楽文化を創っていくのだ。かつて、ボーカロイドがそうだったように。「ユーザーとともに、感動を創る」。この姿勢は、ヤマハの中に息づくDNAなのかもしれない。

世界へと広がる共奏の輪

演奏者同士が共に音楽を奏でると、その「共奏」の輪は次第に大きくなって、世界中へ広がっていく。北原、林、渡辺、山本には、そんな未来が見えているようだ。

SYNCROOMは2023年6月、日本に加えて韓国でのサポートを開始した。いつかはあらゆる国のユーザー同士がセッションできる世界をつくりたいと北原と山本は夢見ている。「現時点では技術やインフラの制約があって難しいのですが、SYNCROOMを通して地球の裏側の人とも気軽に合奏が楽しめたら、なんて素敵なことだろうと思い巡らしています」(北原)。その第一歩として、まずはサービスの海外展開を進めている。

yamaha-st04-06.jpg

スクールプロジェクトもまた、明確なビジョンを掲げている。「スクールプロジェクトが最終的に目指すのは平和な世界への貢献です」と林は語る。「私たちが大切にしている主体性や協働性を子どもたちの内に育んでいけば、彼らが大人になった時に世界はもっと平和な場所になっているのではないでしょうか」。

「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」。これは、ユネスコ憲章の前文にある言葉だ。林たちはここから着想を得て、スクールプロジェクトを通して、世界中の子どもたちの心の中に平和のとりでを築きたいと考えている。

SYNCROOMとスクールプロジェクト――共に奏でる喜びをより多くの人たちに届ける活動の先に、どんな未来が描かれるだろう。地球の裏側の人とも気軽にセッションできる日々や、子どもたちの心の中に平和のとりでが築かれた世界。北原と林が描く未来像は決して夢物語ではなく、「共奏」を通じて紡ぎ出していくものである。「そのための力が、音楽にはある」。北原、林、渡辺、山本はそう信じている。

(取材:2023年2月)

TAGS
SHARE